2007年08月21日

メロンシロップ

melon1.jpg


僕が子供の頃だ。3歳とか4歳とか。

そんな小さな頃の、

唯一の夏の鮮明な記憶。

ある日、『かき氷マシン』が家に来た。

親父が誰かから貰ったんだっけかな…。


マシンと言っても、手でレバーをくるくるまわすと

氷がゴシゴシけずられるだけのもの。


僕は母に連れられ、

市場にかき氷用のシロップを買いに行った。

うれしかった。家でかき氷が作れるなんて。


母は『あんたの好きなヤツにしぃ』と言った。

僕が選んだのはスゴい緑色の“メロンシロップ”


僕はあまりにも嬉しそうにしていたのだろう。

酒屋のおじさんは、メロンシロップを

僕にそのまま持たせてくれた。


そして僕は、

早く家に帰りたくて走り出してしまった。

メロンシロップを見ていたから?か

店の出口にある段差に気がつかなかった。

僕はふっとんだ。

メロンシロップの瓶が僕より先に大破し、

その割れたガラスと、緑のシロップの上に僕は転がった。

腕が血だらけになった。

僕はケガしたことよりも、

せっかくのメロンシロップが台無しになった事に

ショックで、喋れなかった。

タオルを渡された気がする。


大人の会話は聞こえなかったが、

酒屋さんは新しいのを一本くれた。

酒屋のおじさんがすごくいい人に思えた。

今度は母に渡していた。

母はしきりにお礼を言っていた。


その日の晩、僕はひじを数針縫った。

かき氷の味は憶えていない。


ただ…。

いつも口うるさかった母がその日だけ、

僕に怒らなかったことだけは憶えている。



僕のひじにはまだ、縫ったあとが残ってる。




何かあったとき、なんでもかんでも

神が与えたもうた“試練”…だとか言う奴が信じられない。

運命とか? 冗談のつもりか、それ。

どうしようもない事があった時、

高い空の上から

操作されてるみたいに言うなよ。

操作出来る奴がいるなら、

もっと真面目にやれよ。それが神でも運命でも。

もっとちゃんと人を見ろよ。

母をこれ以上傷つけるのはやめてくれ。

やさしい人なんだ。人気者でね。

たくさんの人に好かれてる。

人の価値を見極めてくれ。

あと20年くらいふつうに生きれるだろ。

やっと、数年前の手術と心の傷も癒えたのに。

親父が死んだ悲しみも越えかけてたはずなのに。


…乳癌なんて。

ステージ2。初期でも末期でもない。

なぜまたメスを入れなきゃなんないんだ。

風呂に入る時、いつも前の手術跡を見てるはずなんだ。




高い空の上に、もし本当に誰かいるなら、


どうせなら、俺を殺してくれないか。

ろくでもない人間だけど、

母の数年の健康分、代償くらいにはなるだろう。

今まで迷惑かけてきたんだ。いいから。


だから

母にはもう一度、微笑んでやってくれないか。






今住んでいるところのすぐ近くにある

老夫婦がやってる小さな店で。

何年ぶりだろう、かき氷を買った。

「シロップ何にする?お兄ちゃん」



すぐに声が出なかった。




posted by 宇野伸茂 宇野正剛 at 22:39| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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